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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(あ)5212号 決定

本籍

台湾台中県大甲鎮大甲街頭山下二二番地

住居

神戸市生田区下山手通三丁目四一番地

海産物商

林和

明治三三年八月二四日生

右の者に対する麻薬取締法違反被告事件について昭和二八年一〇月九日大阪高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人前田力の上告趣意及び同我妻源二郎の上告趣意第四点について。

所論は何れも事実誤認の主張であるから上告適法の理由に当らない。

弁護人我妻源二郎の上告趣意第一点及び第二点について。

第一審判決が証拠として挙げている被告人の司法警察員に対する第一回供述調書の記載によれば被告人は白紙に包んだ本件麻薬を所持していたことを否認してはいるが、その否認部分を除けば被告人が判示日時頃判示場所附近で二人の巡査に呼びとめられたこと及びその後の模様は第一審判決に摘録された通りであつて、何等供述の全趣旨を歪曲し且つ変更して摘示したと認むべき点はないこと明らかであるから所論判例に違反するところは少しもない従つて所論判例違反の主張はその前提を欠き上告適法の理由とならない。

同第三点について。

所論の点は原審において控訴趣意として主張されず従つて原判決が何等判断を示していない事項であるから、このような事項について原判決の判例違反を主張しても上告適法の理由とならない。

尚本件公判調書は昭和二七年二月一日改正施行された刑訴規則四四条の規定に従い作成されたものであるから同条の必要的記載事項以外の事項はその記載が省略されているのである。従つて起訴状の朗読及び刑訴二九一条二項の手続が行われた旨公判調書に記載がないのは両手続が適法に履践されたと推認すべきであり、ことに右両手続の行われなかつたことに対する被告人又は弁護人の異議の申立があつた形跡は記録上全然ないところからみても両手続は現実に行われたものと推認するを相当とする、論旨は理由がない。

所論挙示の(1)乃至(3)の高等裁判所の判例((3)の判例は高等裁判所刑事判決特報三号一四八頁とあるは同号九四頁の誤記と認める)は何れも前記規則四四条の規定の改正前の判例であるから、すべて本件に適切でない。

同第五点について。

所論は量刑不当の主張にすぎないから上告適法の理由に当らない。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 池田克 裁判官谷村唯一郎は出張につき記名押印することができない。裁判長裁判官 栗山茂)

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